日本型組織の特徴②
日本型組織の特徴のもう一つは、戦略についての側面です。
同じ「失敗の本質」では、戦略上の失敗として次の2つを挙げています。
一つは、「近視眼的な戦略思考しかなく、長期的なグランドデザインがなかったこと」
もう一つは、「そもそも、戦略目的が非常に曖昧であったこと」です。
近視眼的な戦略思考については、次のような記述があります。
「ガダルカナル島に揚陸中の米軍輸送団を沈め、その攻略作戦を挫折させるために展開された第一次ソロモン海戦のとき、三川艦隊は夜襲によって敵の重巡洋艦四隻撃沈、他に重巡一、駆逐艦二大破という敵主力を撃破する大戦果を挙げたが、作戦の主目的である輸送船団には一撃も加えないで引き揚げた。」
「長期的戦略を欠いた短期志向の戦略展開という点では、陸軍も例外ではなかった。それは、随所で見られた兵力の逐次投入に如実に表れている。ノモンハンでは、初動における投入兵力が過小であり、その後も兵力の逐次投入が行われたが、圧倒的に優勢なソ連軍を相手に多大な人的損害を累積するのみであった。」(P279.280)
「日本軍の短期決戦志向は、戦争全体を通じて抜きがたく個々の戦略を支配していた。」(P282)
「目的の曖昧さ」については、つぎのような記述があります。
「いかなる軍事上の作戦においても、そこには明確な戦略ないし、作戦目的が存在しなければならない。目的の曖昧な作戦は必ず失敗する。(中略)ところが、日本軍ではこうしたありうべからざることがしばしば起こった。」(P268)
「作戦目的の多義性、不明確性を生む最大の要因は、個々の作戦を有機的に結合し、戦争全体をできるだけ有利なうちに集結させるグランドデザインが欠如していたことにあることはいうまでもないであろう。」(P274)
「この点で、日本軍の失敗の過程は、主観と独善から希望的観測に依存する戦略目的が、戦争の現実と合理的論理によって漸次破壊されるプロセスであったということができる。」(P274)
一流とされる企業を含めて、これまで数多くの現代の組織が不祥事を起こしてきたのは皆さんご承知のとおりです。その主な原因が、自分たちの組織の論理だけで物事を判断しようとしたり、自分たちの組織だけの利益を守ろうとしたりしたことにあったと、私は思います。
その背景にあるのは、上記に挙げた二つの点、「近視眼的な戦略思考しかなく、長期的なグランドデザインがないこと」、「そもそも、戦略目的が非常に曖昧であること」に依るところが多いと思います。
”年功序列”という暗黙のルールのもと村の長老の意を受けながら、自分たちの村の論理だけで判断する。非常に強い同調圧力からも逃れにくいものがあります。
そんな組織と行動力学のもと、”まじめな”個人ほど、目の前の小さな目標に向かって、もくもくと努力する。しかし、大局的なグランドデザインが不足しているために、いつしか(社会)全体の倫理観から逸脱してう。そんなふうにして多くの不祥事が生まれてしまったのではないでしょうか。
これはあくまで推論ですが、今の国会を騒がしている財務省の問題も、これと同じ構図だと思います。財務省の場合はそこに、強烈なエリート意識が驕りとして乗っかって、輪をかけたのじゃないかと思います。これはすなわち、「失敗の本質」が取り上げるかつてのエリート組織「日本海軍」と全く同じ愚の繰り返しかもしれません。