経営ビジョンについて ① 経営ビジョンとは何か

私がいつも行っているフィットネスクラブでは、ランニングマシンのコーナーにテレビ画面がずらっと並んでいて、走りながらテレビを眺められるようになっています。今日、クラブに行ってランニングマシンのところを歩いていると、ちょうどイチロー選手のインタビューと、東京都知事のニュースが横に並んでいました。そこに映し出された二人を眺めていると、人としての値打ちに天と地ほどの開きがあると考えざるを得ませんでした。 一人は、己の低い次元の欲望だけに突き動かされ、人を欺き、倫理観のない世界で生きてきました。もう一人は、高いビジョンと目標を掲げ、真摯に己に向き合い、努力を重ねて他者から称賛される実績を得ました。

そう、前回ご紹介した天野篤さんが「理念の人」だとすれば、イチローは「ビジョンの人」だと思います。今日のインタビューの中でも、「何度も人から『そんなことは無理だ』と笑われながらも、小さい頃からプロ野球選手になるんだと思い続け、その後は大リーグで活躍すると思い続けてきました」といった主旨のコメントを語っていました。素晴らしいビジョンを、子供の頃から直感的に思い描くことができたと思うし、そのビジョンの実現に向けて自分で決めたハードなトレーニングをずっとやり抜いてきたからこそ、今の彼があるのだと思います。

では、そもそもビジョンとは何か!?  辞書を紐解けば、「将来の構想」、「先見の明、洞察力」、「将来を見通す力」といった言葉が並びます。

こうした言葉を、よりわかりやすく、具体的に説明(いわば、翻訳)するのが私たちの仕事の一つだとすれば、私は、「経営者やその会社にとっての、将来の最も好ましい情景」が経営ビジョンであると思います。

「将来の」という点は、辞書と同じです。ただ、辞書と違う言葉が3つ、その後に続きます。

「最も」 経営ビジョンは、その時点で、つまりその時のその会社にとって、思いつく限りの中で最高のものであってほしいからです。

「好ましい」 あるべきでも、望ましいでもなく、あくまで「好ましい」です。つまり、経営者や従業員が自主的に、自由にのびのびイメージの翼を広げて、「こうなったら楽しいな、素敵だな」と感じられることが大切です。こんな風に考えるていくと、「夢」、「希望」、「進歩」、「前進」といった前向きなイメージにつながります。一方、経営の世界ではよく「あるべき姿」という言葉を使うことがありますが、「あるべき」では自由にのびのびと考えることができないことがあります。「望ましい」という言葉も、どこかに遠慮がちなニュアンスが含まれる言葉です。

「情景」 この言葉は国語辞書では、「人の心を動かす風景や場面」と説明しています。ビジョンは「人の心を動かすものでありたい」ですね。だから、風景や光景ではなく、「情景」としています。

 

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